皮肉にも国は、2度の過ちを犯したのである。
ところが、国は絶対に過ちを認めない。
認めれば責任問題に発展するからだ。
イタリア4・2、ドイツ3・4、アメリカが11・8であることを考えると、わが国の11・0は少ないと感じるが、厚労省は「絶対数は足りており、問題は偏在している点だ」という立場を崩さない。
興味深いことに、医師数が満ち足りているといわれるドイツでも、旧東独をはじめとした過疎地域では、勤務医、開業医ともに不足している。
若い医師が田舎で開業しないため、引退できずにいる高齢の医師も少なくない。
一方、都市部では、報酬が高めの専門医を中心に医師は過剰気味。
また数こそ少ないが、公的医療保険を扱わない自由診療の医師も増えているという(07年8月27日付「N新聞」夕刊)。
さらに、最近は医師の国外流出も問題となっている。
英国や北欧などへ中長期的に移住するドイツ人医師が増えている。
このような状況下でも大騒ぎにならない背景には、ロシア、イラン、ギリシャなどから来る外国人医師の存在がある。
04年の統計によると、ドイツで医師免許を取得した5人に1人は外国人で、さらに増加傾向にある。
つまり、医師の市場もグローバル化しているのだ。
日本にもこうした動きを敏感に察知した病院がある。
東京都杉並区の河北総合病院だ。
同院が提案したのは、米国から招いた救急医療の専門医が診察する「救急救命室(ER)特区」。
患者にとってどんな病気やケガでもすぐ診てもらえるメリットがあるだけでなく、医師や看護師にとっては米国の進んだ救急医療技術を吸収するチャンスにもなるという。
もう少し詳しく見ると、2004年末現在における全国の届出医師数は27万371人。
特区では医師法が禁じる日本の医師免許を持たない外国人医師の医療行為の解禁を求めた。
だが厚労省は米国の医師免許を持っていたとしても、「日本での診療に必要な専門的知識・技能を持っていることを客観的に証明・確認できない」として申請を却下した。
同病院のK理事長は「救急医療では米国が先進国。
実績を上げている医師を認めない理由が分からない」と苦笑する(07年8月18日付「N新聞」)。
同病院が内諾を得ていた医師の1人は、米国医師免許を持つ日本人で、母国語は日本語だった。
にもかかわらず、厚労省は「日本語での意思疎通が困難」と無理やりな却下理由を加えた。
「鎖国状態」が続く日本だが、医療現場に赴くと、医師そのものが足りないという声が根強い。
実際、病床100床当たりの医師数を見ると、アメリカが77・8人、イギリスが421・9人、ドイツが39・6人、フランスが215・2人もいるのに対してわが国は15・6人と、アメリカの約5分の一しかない。
病床数が多すぎるといえば、それまでだが、そこに一定の患者がいることを考えると当面の課題は医師不足だ。
業務の種別にみると、医療施設に従事する医師が95・0%とほとんどを占め、医療施設・介護老人保健施設以外の業務に従事する者は3・3%と少ない。
医療施設に従事する医師のうち、病院・診療所の開設者又は法人の代表者が総数の28・8%、医療施設の勤務者が66・2%となっている。
また、介護老人保健施設の従事者は0・9%しかいない。
医療施設に従事する医師の主たる診療科(1人につき一診療科)を見ると、多い順に内科28・7%、外科9・1%、整形外科7・3%となっており、これらで約半数を占めている。
これに対して、気管食道科、性病科、アレルギー科などは少ない。
ただし、この統計も曲者だ。
というのは産科を標傍していても、実際にお産を取り扱っている病医院はその半分にも満たないことが日本産科婦人科学会の調査でわかったからである。
厚労省の医療施設調査(05年10月)では、産婦人科(産科)標傍病院は1616施設、一般診療所は4381施設で計5997施設ある。
しかし、同調査によると、そのうち実際に分娩を行っているのは、病院1321施設、有床診療所162施設で、合計2923施設にとどまるという。
また、分娩に携わる常勤医師は全国で7873人。
同学会では、分娩を行わない施設が増えている要因として、少子化による分娩数の減少のほか、医療訴訟の増加や開業医の高齢化があるとみている。
つまり、ハイリスク、ローリターンな診療科では、標傍と実態の「乗離」が生じているのである。
全国の医療施設従事医師数を年齢階層別にみると、40〜49歳が26・6%と最も多く、次いで20〜39歳の24・9%、50〜59歳の18・2%となっている。
さらに業務の種別でみると、若年齢層ほど医療施設の勤務者が多く、高年齢層は医療施設の開設者又は法人の代表者が多い。
ここで問題になるのが、昨今の異常な開業・廃業ラッシュだ。
04年10月〜05年9月の1年間で6106の一般診療所が開設もしくは再開し、5715の施設が廃止もしくは休止している。
これでは毎年約8000人の医師を供給しても問に合わない。
さらに性別でみると、女性の従事医師数は4万4628人(16・5%)と低いが、現在の医学部をみると、女子学生は全体の33%を占めている。
女性医師は、出産・育児休暇によって職場を離れる傾向が強く、これが医師不足を加速化している。
特に不足が著しい産科や麻酔科では、女医比率が高い。
京都大学医学部附属病院運営企画室の長瀬啓介副この他、医療施設従事医師について人口10万人当たりの分布状況をみると、徳島、高知、京都などが多く、埼玉、茨城、千葉などが少なくなっている。
都道府県間にはかなりの差がみられ、西日本に多く関東以北の県は少ない傾向となっているのだ。
これが俗に言われる地域的偏在である。
室長によれば、「産婦人科において、男性医師は、1990年代後半以降すでに長期にわたり減少しており、その減少部分を女性の若手医師でカバーしてきたが、年齢が上がるに従い急激に病院勤務の女医が減少している」という(「社会保険旬報」2008年3月1日医師不足の声は、新臨床研修制度が始まってから日増しに大きくなっている。
そもそも戦後導入された医師国家試験制度においては、試験の受験資格を得るために、大学卒業後、1年以上の診療および公衆衛生に関する実地修練を経なければならないという実地修練(インターン)制度があった。
ところが、これが無給医師を生み、大学紛争に発展した。
そこで1968年、医師法改正によりインターン制度は廃止され、代わって臨床研修制度が開始された。
この改正によって大学卒業と同時に医師国家試験の受験が可能となり、医師は免許取得後に、2年以上、大学病院または臨床研修病院で一定の臨床研修を行うよう努力することになったのだ。
この臨床研修制度については、特にプライマリ・ケア(初期診療)の能力に優れた医師の養成・確保が重要であるという観点から、研修方式の見直しや研修の場の拡大など、一定の改善がなされてきた。
世の中が大きく動いたのは、2000年12月に、卒後臨床研修を必修とする医師法の改正が行われたところからである。
実際、1268の臨床研修病院で7526人の医師(05年4月現在)が、患者を全人的に診ることができるよう、アルバイトもせずに研修に専念している。
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